2012年5月19日土曜日

エヒメオーナー【船主というお仕事:ざっくり2兆円の船価!!】

「エヒメオーナー」と言う言葉を聞いたことがあるでしょうか?名前のとおり、愛媛オーナー、愛媛船主です。ギリシャや香港と並んで外航船の船のオーナーの事を指します。それが何故、愛媛県の今治に固まっているのでしょうか?不思議なところです。日本の大手海運会社であるNYKこと日本郵船、Mitsui OSKこと、商船三井、K-lineこと川崎汽船は、貿易立国日本を陰で支える立役者です。その船団は、世界の港を結び、原油や鉄の原料となる鉄鉱石を日本に運ぶだけでなく、その原料やエネルギーを支払うための外貨のおおもととなる輸出製品の車や電気製品などの輸出を支えています。

しかし、バランスシートから切り離すことによって、資産を持たない経営を進めてきた大手船社は、いま、その主力を傭船に頼っています。長者番付にも名を連ね、1955年以来、何度も造船不況に直面しながらも一度も赤字を出していない檜垣幸人社長の率いる今治造船の子会社である正栄汽船や巨大船主ですが、表には名前が出てこない洞雲汽船と言ったところが有名どころです他にも、瀬野汽船、日鮮海運、福神汽船、春山海運、東慶海運、瑞穂産業、敷島汽船があり、多くは10人から30人の社員数に対して、船は50隻から100隻ほど保有しており、新造の船価(30億円から200億円)で全てを計算すると5000億円を超えてしまいます。家族経営に近いところとは言え、資産は一部上場企業を超える(直接上場ですと株式の時価総額が500億円以上が東証の基準のようですが、現在東証一部上場の企業の資産を見ると業種にもよりますが総資産100億円以上の会社と比肩するぐらいでしょう)ものも多くあります。最近は、LNGなどの高付加価値船などもかなり導入しているので、タンカー、コンテナ船やバラ積み船などだけでなく、色々な種類の船舶を保有しています。そのような船主の船が、日本の海運会社だけでなく、海外のコンテナ船のオペレーターに傭船され、それらの会社の支配船腹として国際物流を支えています。一杯船主(一隻船主)と言われる、一隻しか船を持たない船主も多いのですが、直近の海運バブルで、洞雲汽船は100隻に及ぶんじゃないかと言われています。

こういうところは、日本の制度が余りにもウンコなので、シンガポールに拠点を移すところも多いといいます。要は便宜置籍船(ペーパーカンパニー)から、本当に拠点をうつしちゃうってヤツですね。パナマ船籍やリベリア船籍などが有名です他にもバハマ、マルタ、キプロスなんかをちょくちょく耳にしますが、やっぱり、インフラが整っていて法整備もきちんとされているシンガポール船籍というのは、超納得ですからね。まぁ、パナマックス、スエズマックスなーんて言うように、その運河を通れる最大級の船型のものの通り道の国はわかりますが、やっぱり、バラ積み船のケープ型、VLCC(Very Large Crude Career:原油タンカー)といったところがメインですからね。ちなみに、船主の仕事と存在は、家族経営が殆どであることから、その実態はベールに包まれています。世間に注目を浴びても税務署に目を付けられてしまうとかあり、良いことはないので、規模は一部上場企業であっても、資産規模に見合わない有限会社などで目立たず経営をしているのだと思います。殆どが会社のHPも持たず、そして傭船先が表に立つことから、名前も表に出ることはないので、一般人が知ることはまずありません。ですので、グーグルなどで調べても殆どヒットしません。こんな業界もあるんですね。その意味では、沖縄の軍用地主なんかも年間賃料が一人で20億円ある人がいるってことも最近知ったぐらいですから、他にも目立たずやっている業界の人もいるかもしれませんが、一般の知名度と資産規模のギャップでは、洞雲汽船がダントツだと思います。

聞くところによると日本の外航船の6割が、エヒメオーナーと言うことです。今治の今治造船、来島どっくや瀬戸内海に点在する造船関係の会社、そして三井造船や三菱重工、川崎重工、IHIという大手も含めれば瀬戸内サプライチェーンと形容されるように、船のサプライヤーは手の届くところにあるといっていいと思います。また、船は鉄の塊ですから、新日鉄やJFEスチール、神戸製鋼のような高炉メーカーも手の届くところにあるのもその立地に影響をしていると思います。でも、何故今治に偏在しているのかというと、瀬戸内海の造船関係の立地の良さということだけでなく、村上水軍がその由来としてあるようです。やはり、先祖のDNAを引き継いでいるのでしょうか、「船成金」と言う言葉は最近は聞かないものの、このような表にでないですけど、船舶の賃貸業を生業としているオーナーが集中している理由だと思います。とどのつまり、建造インフラ、船舶ファイナンス、船関係のバックグランドと言う三拍子が揃っていることが理由だと思います。その意味では、広島なども愛媛の今治に近い地理的な条件が揃っていますが、福山に藤光汽船や備後中央汽船などがあるぐらいで、数と量では今治にはとても及びません。今治オーナーとでも言っていいぐらい、今治に偏在しているのがスゴイです。

今治は、船の町で、今治造船のお膝元ですから、造船会社が月賦払いを認めていたり、それに付随して銀行もフルファイナンスできるような審査能力があるところが殆どです。特に愛媛銀行は地方銀行とは言え、この分野の審査能力、ノウハウに長けています。ちなみに、船は数十億円から200億円くらいの船価ですので、建造等の資金需要をまかなうために、その都市規模に比べると過剰ともいえる銀行数、そしてメガバンクの支店があると言われており、三菱商事、三井物産、住友商事などの大手の商社の方たちも飛行機や電車を乗り継いで日参しているということです。どのように、資金調達が行われ、船がオペレーションされているのかは知りませんが、こんなスケールの大きい仕事があるんだって事を知って驚きました。船成金として内田信也、勝田銀次郎、山下亀三郎、山本唯三郎なんかが有名ですが、乾汽船の内田信也の御殿は神戸の御影でもかなり有名です。ちなみに近所には、大林芳郎(大林組)、 武田長兵衛(武田薬品)、村山龍平(朝日新聞社主)、 住友吉左衛門(住友財閥)、竹中錬一(竹中工務店)、嘉納(菊正宗)、大谷光瑞師(本願寺館長)、岩井勝次郎(岩井商店社主)、 野村徳七(野村財閥)、弘世現(日本生命社長)など日本経済の立役者となった人たちの邸宅がゴロゴロしています。阪神間モダニズムと言われる阪急沿線のこのあたりは、芦屋市の六麓荘町なんかがその代表例ですが、苦楽園、岡本、住吉や御影あたりも貧乏人には腰を抜かしそうな家が多く、驚きます。それにしても阪神やJR、阪急と言った沿線で全く、街の雰囲気が変わるのも露骨だなw

いまは、BDI(バルチックドライインデックス:バルチック指数)が暴落してるように、2000年以降の中国、そして資源バブルから、新造船のバックオーダーが何年分にもなり、造船業界は、長い造船不況後に久々にわが世の春を謳歌できたわけですが、半導体や液晶業界と同じく、その反動が大きく、そろそろ厳しい時代に突入します。あと、今の日本は、税制のことで船首には本当に厳しすぎるということで、シンガポールに拠点を移すところも多いようですね。早く、日本政府もいろいろ策を考えてほしいもんですよ。

シンガポールは、やはり、国策として、金融、物流、観光の三本の柱に力を入れており、その他にも、ハブ機能としての地域統括本社を置いてもらえるように有利な環境を作ったりしています。物流面では、港湾と空港がしっかりしているということが特筆すべきことでしょうか。超大型のコンテナ船が荷役できるガントリークレーンもありますし、デマレージ(滞船料)がかからないような迅速な荷役などもあるでしょう。あとは、給油や食料などの補給もシップチャンドラーがしっかりしていること、それから船のメンテナンスなんかもしっかりできる体制がありますし、なにせ、クラ海峡に運河ができない限りは、オイルロードやシーレーンの途中にあるシンガポールはとても大きなメリットがあります。船主は、今後、オペレーションや税金のことで、シンガポールに本拠地を本気で移すところが多くなってくると思います。やはり、税制なども含めたインフラが違います。

特に、税金は、苦労して稼いだ利益があっという間になくなってしまうほどの破壊力を持ちますので、船籍をパナマやリベリアへ移しちゃうと言う便宜地籍船ばりに、便宜ではなく、本拠地を移されちゃいますよ・・・・と思っています。さすがに、ボランティアでやっているわけではなく、利益を出すためにやっている訳ですし、あとは、生死に関わる会社存続の問題に関わってくる訳ですから。船舶のオペレーション面での環境でも非常にメリットがあるだけでなく、シンガポールは、保険と金融の世界の英米法が使われていることから、資金調達のためのファイナンスも、そして弁護士や公認会計士も日本に比べると敷居ははるかに低いです。おまけにP&IやHull & Machineryの保険を付保するための保険ブローカー、保険会社、再保険会社、そして船の世界で船級を決めるロイズ(再保険の大手であり、保険料を算出するために船のカテゴリーを決めている)やABS、Bureau Veritasなんかも揃って、しかも本国と簡単に英語でやり取りができる環境なので、敢えて日本にいるメリットが見つからないぐらいです。最近は、シンガポールなんかが船籍を獲得することに力を入れていて、一時のパナマ船籍から、シンガポール船籍へ移る会社が多いようです。

貿易立国、造船大国、海運大国の日本の生命線となるこの分野、もう少し考えてもらいたいなーと思います。皆さんご存じないですが、航空貨物と海上貨物を比較すると、取扱量と取扱金額などを比較すると、取扱量では99%以上を海上貨物が占めます、取扱金額においても99%に近いくらいの比率であったと記憶をしています。確かに、航空貨物は半導体などの高価なものの輸送が多いですが、それでも、圧倒的に海上貨物が多いんです。日本の生命線である海運をもうちょっと考えてもらいたいなーと思います。コンテナ船から油槽船、バラ積み船、カーフェリーに至るまでフルラインナップで運用をしている大手3社以外に、飯野ホールで有名な飯野海運や共栄タンカー、三光汽船(先日、実質二回目の倒産をしました)、第一中央汽船、玉井商船などの準大手クラスは、海外で行われているマースクとシーランド、それからP&Oネドロイドを飲み込んだメガキャリアである外資の外航船の大手の再編を横で見て、他人事ではないと思っていると思います。

愛媛船主が外航船主流の経営に舵を切ったのは、貿易立国であるということもありますが、内航船の建造が制限されるなどの規制であり、その規制のないところに活路を見出したところもあり、海外の外航船大手の動向は目を離せないと思います。実際にコンテナの輸送能力の換算(下図参照)でみるとトップのマースクに対して、二位以下は倍以上の差をつけられており、日本郵船や商船三井とは、5倍以上も差があります。トップは203万TEU(Twenty Feet equivalent unit: 20フィートのコンテナ換算)で、日本勢の大手三社はそれぞれ40万TEUを切っており、三社合わせても120万TEUに手が届きません。日本もこのようなメガキャリアに対抗するために、再度再編が必要かもしれません。それにしても、台湾のEVERGREENがここまで伸びているとは思いませんでした。マースクが1万TEU越えのコンテナ船を登場させたのは、21世紀になってのことですし、バラ積み船でブラジルのヴァーレがヴァーレマックスを登場させるのも1、2年先の事ですからね。ヴァーレ、リオ・ティントやBHPビリトンのような資源メジャーは寡占で、もう言い値にちかいぐらいですから、FOBではなく、自社船を所有してCIFで交渉をしようとしていますが、市況がいいとき、大手はやりたい放題やりそうですね。

韓国や中国の造船所が台頭していますが、無線やレーダーなどの電装品やボイラー、プロペラや淡水化装置(多段フラッシュや逆浸透膜)など、日本が優位性を持っているところはたくさんあります。特に、淡水化技術のうち逆浸透膜の技術は、船用品のニーズから派生したと私は考えており、船に付随する技術と言うのは、船上で日常生活を完結するために生まれたもので、信頼性や耐久性も求められたものですから、他に転用もしやすいものがたくさんあります。ここは、営業やエンジニアの腕の見せ所だと思います。付加価値がもっとも高いと言われているOil&Gasの分野は、最近ではオフショアと言われる海洋油田の開発のニーズが極めて高く、FPOやFPSO、TLP(テンションレグプラットフォーム)などの特殊な船や原油掘削リグなど、原油や天然ガスの用途に使われるものが増えていますが、実は、日本勢のこの分野での実績は、実は、余り芳しくないと言うのが実態です。唯一頑張っているのが、三井造船の子会社の三井海洋開発ぐらいです。この辺にも愛媛船主がひょっとしたら頑張っているかもしれませんが、通常の商船といわれる範疇の分野でのことであり、通常の海運会社が手を出していないこの分野は未踏の分野かもしれません。海洋分野での資源開発は、新日鉄エンジニアリングがパイプラインの敷設からジャケットの据付など今までノウハウを蓄積していますが、最近では、エンジニアリング会社の日揮や千代田化工もこの分野の仕事を手がけており、千代田化工は、井戸元の分野の会社も買収して、よりアップストリームよりの上流向けのビジネスをしようとしているため、今後、面白い展開になると思います。

ふと思ったのが、航空機のリース契約としてレバレッジドリース(通常は、ファイナンシャルリースに対するオペレーティングリース的に実務上は取り扱われていると思います)が節税で有名になりましたが、LCCの台頭など、世界的な航空機の需要も大きく、ノウハウ的にも似ているので、三菱重工のMRJなどで、航空機の分野に日本が活躍できる環境が整ったら、そちらの分野にも進出をする可能性は十分ありますね。ボトルネックになるとするならばパイロット確保の問題でしょう。免許の問題や税制の問題など、日本と言うのはビジネスがしにくい国になってしまいましたが、このあたりは、仕事が激減している弁護士、公認会計士、そして税理士あたりが虎視眈々と狙っている分野だと思いますが、やっぱり、現実問題を考えると、愛媛船主は隣接分野として、オイル&ガスの分野を狙っているでしょうし、既に検討はしていると思います。実際に、オーシャンタグとかリグ、ドリリングシップなどの需要はすごい勢いで増えていますから。油田は、もうガワールやブルガンのような取り易いところには残っていませんからね。あとは、期待できるのはシェルガス革命ですかね。

今後、荷動きは、東南アジアと中国を中心とした東アジア地域が増えることが予想され、コンテナの取扱港のランキングを見ると、現在の勢力図が良くわかります。一方で、バラ積みの貨物はどうでしょうか?これもほぼコンテナに比例するのでしょうが、付加価値の高い鉄、高張力鋼板など、いままでのノウハウの詰まったものに関しては、なかなか他国も真似できないところがあり日本に頼らなければならないところが多いと思います。素材系は、リバースエンジニアリングで解析できないところがまだ相当数あり、プロセスなどがその代表例ですが順番、手順、ちょっとした環境の違いがあっただけで、組成が全く変わります。また、熱処理などの温度管理もノウハウの塊のようなもので、門外不出のノウハウです。技術が違いますが、ちょっと前に韓国のPOSCOが新日鉄の方向性電磁鋼板のような極秘技術を盗んだような事例が代表的ですが、技術流出がなければ、気の遠くなるような時間がかかるのです。また、高炉の建設には非常に多くの費用がかかり、運営にもノウハウが製造に必要なことから、まだ暫くは日本の優位であることには変わりありませんが、品質が低くても構わない建設用など電気炉に近いような品質のものであれば、圧倒的に中国が有利でしょうし、鉄鉱石なども製造コストの安い中国へ運ばれることになると思います。日本というのは、いろんな意味で衰退はしていくのでしょうが、造船大国として、更にはインフラがここまで整ったアジアの国は他にはないため、税制という会社運営の大きな重石になるものを除き、日本にいるメリットとは相当大きいのだなと思います。繰り返しになりますが、手の届くところですべてが調達できるのが一番のメリットですよ。




●便宜置籍船

●船主


船主(せんしゅ、ふなぬし)とは、船舶を所有する者のことである。発音が同じ「船首」(せんしゅ)と区別するため「船主」を「ふなぬし」と読むことがある。

船主が、英語でシップオーナー(Ship owner)と呼ばれるのに対し、船の運航者はオペレーター(Operator)と呼ばれる。 「船主」という言葉を使うときは、後者の例で「オーナー」に徹し、専ら海運会社に船を貸し出す立場の者を意味することが多い。

海運業に於いては、海運会社自身が所有(Ownership)と運航(Operation)の両方を実施する場合と、所有と運航とを分業し、海運会社は船主から船を借り、運航のみを実施する場合がある。

日本では愛媛県の今治市を中心に、船主を生業とする事業者が偏在して、日本全体の外航船舶の約30%を保有している[出典 1]。愛媛船主(エヒメオーナー)は、ギリシャや香港の船主と並び、世界の海運界でも有名な存在である。愛媛船主は様々な船を持っており、保有船隻は約830隻、資産価値にして約2兆円とされている。 [出典 2]市内には金融機関や保険会社、総合商社、法律事務所などが船主向けの企業が多数立地している。

海運会社自身の所有や愛媛船主であっても、便宜置籍船とされることが多く、船籍港はパナマやリベリアといった便宜置籍国となる。
出典 [編集]

●海運業の発達と現状 出展:愛媛銀行  世界に誇る地場産業「愛媛船主」の概要
http://www.himegin.co.jp/furusato/pdf/report_kaiun.pdf
http://www.himegin.co.jp/furusato/pdf/report_kaiun2013.pdf
海運業の発達と現状 世界に誇れる地場産業『愛媛船主』の概要

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