2026年9月23日水曜日

永守帝国であったニデックは今後、どうなるのか?【天才永守の代わりは誰も務まらない】

 2026年9月時点で見ると、ニデック(旧・日本電産)の今後は、「これまでの急成長企業」から「大規模な再建を経て、もう一度成長軌道を作れるかを試される企業」へ移行する時期だと考えるのが適切です。再建王、買収王の永守の代わりは誰も務まらず、何度も社長を譲ったものの、自分が返り咲いています。しかし、既に永守も良い歳になり、いくら天才と言っても、あれだけの規模の会社と時代の変化にはついていけなかったのでしょう。

現在の最大の問題は、EVやモーター市場そのものよりも、会計不正を契機としたガバナンス・内部統制の再構築です。2026年には第三者委員会による調査が行われ、多数の会計不正が確認され、主要役員の辞任など大幅な経営体制の刷新が進められています。会社自身も「新生ニデック」への再生を掲げています。N

一方で、ニデックの事業基盤まで失われたわけではありません。精密小型モーターではHDDやデータセンター関連、水冷モジュールなどが伸びています。車載では電動パワーステアリング用モーターなどに強みがあり、EVトラクションモーターについても戦略転換による収益改善を進めています。また、家電・商業・産業用では発電機、BESS、インフラ向け大型モーターなどにも事業領域を広げています。

特に注目したいのが、AI・データセンター関連です。AIの普及によってデータセンターの電力消費と発熱が増えれば、冷却用ファン、水冷システム、モーターなどの需要が拡大する可能性があります。ニデックはすでにHDD用モーターだけでなく、水冷モジュールなどデータセンターの熱対策に関係する製品を展開しています。したがって、今後のニデックを見るうえでは「EVモーター会社」という見方だけでは不十分です。

そして、もう一つ重要なのが経営思想の転換です。これまでのニデックは、永守重信氏による強烈なトップダウン経営とM&Aによって急速に規模を拡大してきました。しかし今回の問題を受け、今後は各事業部門が自らリスクを考え、現実的な計画を作る方向へ転換しています。第三者委員会の資料では、2027年度の連結売上高目標が2兆9,000億円、ROIC12%とされ、従来よりも下方修正された現実的な計画になっています。

したがって、私は今後のニデックを「一度大きく壊れた会社が、内部統制を立て直しながら、モーターという本業の強さを再利用して再成長できるか」という局面として見るのが分かりやすいと思います。

うまく再生できれば、AI・データセンター、車載、産業機器、エネルギー関連という複数の成長分野を持つ総合モーターメーカーとして、再び成長企業として評価される可能性があります。一方で、ガバナンス改革が形だけに終わったり、過去の会計問題による財務・信用面の影響が長期化したりすれば、成長投資よりも問題処理が優先される期間が長くなる可能性があります。

つまり、ニデックの今後を決めるのは「モーター技術があるか」ではなく、「企業統治を本当に変えられるか」と「AI・データセンターなど新しい需要をどこまで取り込めるか」の二つです。

個人的な印象では、ニデックは「終わった会社」と見るより、巨大企業になった後に組織そのものを作り直す段階に入った会社と捉えたほうが、現在の状況を理解しやすいです。なお、これは株価の上昇・下落を予測するものではなく、事業面から見た今後のシナリオです。

キオクシアの成功と東芝のタイミングの悪さ【1年半で株価50倍の驚異】

 東芝メモリの売却は2018年6月で、売却額は約2兆円でした。東芝は財務危機から抜けるために、この「虎の子」を売らざるを得ない状況でした。

ところが、その後キオクシアは長い苦しい時期を経験します。2023~24年にはメモリ市況悪化で赤字となり、2024年12月の上場時の時価総額は約8,000~9,000億円程度でした。

そして、そこからAIブームが来ます。2025年以降、AIデータセンターの急増によってSSD・NAND需要が大きく伸び、キオクシアの企業価値が急激に上昇しました。2026年6月には一時時価総額45兆円超となり、上場から約1年半で50倍以上になったと報じられています。

だから「東芝は本当に運が悪かった」と感じるところがあります。

東芝が売った2018年は、「半導体メモリ事業を売って会社を救わなければならない」というタイミング。一方、2025~26年になってAIが爆発的に普及して初めて、NAND/SSDという東芝が長年育ててきた技術の価値が猛烈に再評価された。

つまり、売却からわずか7~8年後に、事業を手放した側から見れば「こんな世界が来るのか」という市場環境になったわけです。

しかも面白いのは、キオクシアが単純に「買って放置されて成功した」わけではないことです。ベイン傘下で意思決定を速くし、財務・事業運営を改善し、SSD事業などへの展開を進めたことが、現在の復活につながったと報じられています。

そして東芝も完全に取り残されたわけではなく、現在もキオクシア株を保有しているため、キオクシア株の上昇による恩恵を受けています。2026年には東芝のキオクシア株売却・評価益が利益を大きく押し上げたと報じられています。あと数年タイミングが違っていたら、全く結果は違ったものになったでしょう。本当にタイミングが悪かった、そして経営者の経営判断が悪かった事例でしょう。日立と東芝はライバルとされていましたが、日立の背中は全く見えなくなってしまうほど、先に行ってしまいました。


●東芝

→ 原発問題・不正会計

→ 財務危機

→ 一番手放したくない半導体事業を売却

●キオクシア

→ 東芝から独立

→ メモリ不況で苦しむ

→ AI時代到来

→ NAND/SSDが再評価

→ 企業価値が爆発的に上昇

これは日本企業の歴史の中でもかなり象徴的で、「優れた技術を持っていること」と「その技術の価値が最大化するタイミングまで保有できること」は別問題だという非常に興味深い例だと思います。